じーちゃんサンタクロース「降って来たな…」 白く曇った窓から外の景色を眺める。 十二月の中頃から降り始めた雪で外は真っ白だ。 「寒いな…」 冬の寒さと、独りきりと言う事が羅貫を凍えさせる。 せめて寒さだけでも凌ごうと、ストーブに近寄った。 ふとカレンダーに目をやれば、今日はクリスマスだ。 ――…一人きりのクリスマスか…。 じわりと寂しさが込み上げた羅貫の耳に、ドサッと言う何かが落ちたような音が聞こえた。 何だろうと窓を開けて外に出ると、そこには何かが落ちている。 「えっ!!」 慌てて駆け寄ると、雪の中に男の人が倒れていた。 「大丈夫か!?」 声を掛けるものの返事は無い。気を失っているらしい。 黒髪にゴーグルをつけた見知らぬ青年。 「一体何処から…」 そう思って辺りを見渡すと、頭上から誰かの笑い声が聞こえた。 振り仰いで見れば、空に何か浮かんでいる。何処かで見た事のある物だ。だが、実際にはありえない物。 そこには、トナカイに引かれたソリが浮かんでいた。 さらに信じられない事に、そのソリに乗って、サンタクロースの格好をしているのは――。 「じ、じーちゃん…!?」 「ヤッホー、羅貫。メリークリスマス!」 余りの驚きに口をパクパクさせている羅貫に、じー様は呑気に手を振ってくる。 一体、何が起きたのか把握できない。思考が止まりそうになる。 だが、このままではいけないと、何とか意識を呼び戻して、羅貫はじー様を再度見た。 「こ、この人はじーちゃんが連れて来たの?」 「そうじゃよ。羅貫、一人じゃ寂しいだろうと思ってね。その子の名前は千艸と言うんじゃ。よろしくな」 「いや、そーじゃなくって!じーちゃん、この人何処から連れて来たの!?」 よろしく何て軽く言われても、どうすればいいのかなんて分かる筈もない。 「何じゃ、気に入らんのか?」 「だから、そういう訳じゃ…!!」 「しょうがないのう。なら、この子はどうじゃ?」 羅貫の思いとは裏腹に、じー様はまた誰かをソリから落としてきた。 「ぎゃ―――っ!!」 落ちてくる人影に羅貫は絶叫する。 雪があるから良いものの、かなり扱いが酷い。 「その子の名前は成重。別嬪さんじゃ」 ニコニコと、じー様が落とした人物の紹介をする。 今度は、全体的に色が薄く、髪の長い青年である。 「じーちゃん、この人達、何処から…」 「ん?まぁ、ある所からじゃ」 「本人達の了解は取ってあるの?」 落ちてきた青年達はことごとく意識が無い。 「それは秘密じゃ」 言い方からして、勝手に連れて来た可能性が濃厚だ。 「この人達、もといた場所に帰した方が…」 「この子でも駄目かの。じゃ、こっちの子はどうじゃろうか?」 「えっ、まだいるの!?」 よいしょっ、と反動を付けて、じー様はまた一人落とした。 髪を一つに括った青年である。 「その子は灯二じゃ。羽箒頭で可愛いぞ」 「じーちゃん…」 ただ、朗らかに笑うじー様に、二の句が継げない羅貫である。 これは、満足した事を告げない限り、まだまだ人が落ちてくる可能性がある。これ以上人が増えても困る。 「じ、じーちゃん、ありがとう。これで寂しくないよ」 本心を隠して、じー様に喜んでいる事を伝える。 そんな羅貫の様子に満足したのか、じー様はそれ以上人を落とさなかった。 「そうか、それは良かった。じじいはちょっと心配だったんじゃよ。こんな広い家にお前は一人きりじゃ。寂しくない訳が無かろうて…。だから、誰かを一緒に住まわせたいと思ってな…」 「じーちゃん…」 こんな突拍子も無い行為でも羅貫の事を思ってやってくれているのだ。羅貫の胸に温かいものが込み上げてくる。 「じゃあ、羅貫。彼らと仲良く暮らすんだよ」 「うん、ありがとう」 じーちゃんを困らせてはいけないと、羅貫は笑みを浮かべた。 「じゃあ、良いクリスマスを!!」 そう言って、じー様はトナカイの引くソリに乗って去って行った。 ソリが姿形も無く見えなくなると、羅貫は視線をじー様が残して行った青年達に向けた。 この家に残ったのは気絶した得体の知れない三人の青年。 「…一体、俺にどうしろと言うんだ―――っ!!!」 羅貫の絶叫が空に虚しく響いた――。 「って言う夢を見た…。きっと、あっちは今、クリスマスなんだと思う…」 疲労困憊した羅貫が成重に向かって言った。 「それは…大変だったね」 凄まじい夢の内容に成重は苦笑するしかない。 「何だか、実際にありえそうでちょっと怖かった」 「羅貫君のおじいさんって…」 孫にそこまで言わせるとは、恐ろしい人である。 本当にじー様は謎の人だったからなぁ、と羅貫は改めて思う。 実は、今、自分が異世界にいる事にもじー様が一役買っているのではないかと、ちょっと不安に思った羅貫であった。 |