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 例えば彼の目に映るこの世界は、どのようなものなのだろう。



「う−ん…。さすがにこう、毎日曇り空だとちょっと滅入る感じ…」
 足元から地平の先まで続くのは、延々灰色がかった砂の海で。
 見渡す限りの天上を覆うのは、暗くわずかな濃淡の厚い雲ばかり。
 空を見上げて呟く羅貫に、ふと思って成重は問いを向ける。
「ラカン君は、曇り空は嫌いですか?」
 綺麗な笑みで、穏やかな声で、掛けられた問いの言葉に羅貫は軽く首を傾げる。
「別にそ−ゆ−わけでもないけど。ただ、こうずっと続くと、ちょっと暗い気分になる、かな?でも、夏とかずっと晴れの日が続いたら、それはそれで疲れるし」
 暗色の空を見上げて思い出すように返される言葉。
 その瞳に、青の空を映して育った。
 彼には、この世界はどのように映るのだろう。
「あ、でも、洗濯物とかは乾きにくそう。こっちの世界ってどうしての?」
 あ、そもそも水があんまりないから洗濯も大変か。言いながら自分を見上げてくる瞳は、結構真剣で。
 成重の瞳が思いがけない方向に転がった話題に一瞬見開かれ、それからその唇が柔らかに弧を描く。
 この世界が、彼の目にどう映るも何も。この世界も既に、彼の世界なのだ。
 悲観するばかりでなく。
 楽観するだけでもなく。
 映る世界は、きっと自分と大差なくて、違うのはただその捉え方一つ。

「えっとね…」

 だからきっと、自分は誰よりも彼を理解していける。