甘い声音で、ささやいて




 明るい光がカーテンの隙間から差し込む朝。
 白いシーツの中でもぞもぞと動いていれば、いつもより動ける範囲が広いことに気付く。
 眠気を引き摺る瞼を何とか開け、隣を見れば、いる筈の男の姿がない。
「セファ…?」
 名を呼ぶも、返事も何も返ってこない。
 シーツを触れば、冷たさしか感じられず、随分前に彼がこの場を離れたのだと言うことを知らされた。
「セファ…どこ…?」
 これといって装飾のない質素な部屋にウィルの声だけが虚しく響く。ここに自分しかいないことを知らしめる。
 脳裏を今朝方見た悪夢がよぎる。
 広い荒野の中、一人佇む自分。側には誰の姿もなく、何もない殺風景な場所。ただ、自分だけが存在する…孤独な夢。
「…ヤ……ィヤ…だ…イヤだっ!!」
 ダッとベッドから飛び下り、ドアへと駆ける――彼を捜す為に。

「っ!お頭!?」
「ぁっ……」

 開いたドアの前に驚いた顔をしたセファの姿。
 ただ勢いのままにガバッと抱き付けば、伝わってくる温かさに涙が頬を滑り落ちた。
「お頭?どうしたんですか?」
「…………」
 優しい声が問いかけてくるも、返事など出来る筈もなく、ただ広い胸に顔を埋め続ける。
 仕様がないといった風にウィルを張り付けたままセファは部屋の中に入り、ウィルとともにそっとベッドに腰掛けた。
「大丈夫ですか?」
「………うん」
 何とか落ち着くことが出来たが、セファがどこかに行ってしまうのではな
いかと言う不安から彼の服をつかんでいる手だけは放すことが出来ない。
 そのことを変に思われないかと心配していると、セファが微笑む気配がした。
「大丈夫ですよ、お頭。俺はどこにも行きませんから」
「っ……!」
 そう言って、ウィルの髪を優しく梳いてくる。
 ウィルの頬が赤く染まる。
 ――…知られている。
 何故、ドアを開けたとき顔を蒼褪めていたのか。何故、抱き付いて涙を流したのか。
 セファはウィルの不安を全てお見通しの様だ。本当にいつも彼には敵わない。
「俺は貴方の側にいます」
 何も返事をしないウィルにセファはなおも言い続ける。
 このままでは、聞いているこちらが恥ずかしいと思う様な台詞を次々口にすることだろう。
 迷った末にウィルは赤い膨れ面のままセファを見上げ、己の望みを口にした。
「…………ずっと、だぞ」
「はい。ずっと貴方とともに――」
 返ってきた嬉しそうな笑顔と言葉にさらに顔を赤らめることになったが、ウィルは心が温かくなったことに満足した。





 涙で頬を濡らした朝は

 甘い声音で、ささやいて

 貴方からの永遠の誓いを――…。


title by TV(甘えて5題)