月も待たずに、キスをして「…信乃。何故、そんな所にいるんですか?」 「んー?月を見ようと思って…」 教会の直ぐ側にある高い木の太い枝に腰を落ち着かせ、信乃は自分を捜していたのであろう荘介に言葉を返す。 「月、ですか?」 「そう、月…」 見上げた空に目的の姿はなく、ただ時折、厚い雲の合間から零れる光がそこにあると存在を示すだけ。 「…出てくるまで待つつもりですか?」 「……ちょっと、どうしようか迷ってる」 荘介の呆れた様な声音に、ポリポリと頬をかく。 さっきから待っているのだが、当の主役がなかなか顔を出さないので、信乃もそろそろ我慢が切れてきた。 『戻ろうか』という気持ちと『もう少し』という気持ちが綱引きをして、五分五分の勝負なのだ。 だから、何か切っ掛けがあれば――…。 「なぁ、荘…」 「はい?」 「キスしてくんない?」 「…寝てるんですか?」 「んな訳あるか!そうじゃなくって、キスしてくれたら戻ろうかって言ってんの!!」 つまり、決断できない気持ちを荘介の行動で決めてしまおうと言う、何とも他人任せの判断。 しばし考えていた荘介が上にいる信乃に向かって手招きをする。 「何?」 「降りて来てくれないと、出来ません」 「んなぁっ!?」 至極当然と言われた台詞に、信乃の顔が一気に赤くなる。 だが、自分から言い出した事なので、信乃はそろそろと木を降りていった。 降りてきた信乃を荘介は抱きかかえ、そっと口を寄せる。静かに合わさる唇に信乃は目を閉じ、柔らかな口づけに身を委ねる。 しばらくすると、いきなり暗かった瞼の裏が白く明るくなった。 互いに離れ、目を開いて見れば、あれだけ厚くかかっていた雲はどこかへ流れたらしく、白く輝く月がその姿を惜しげもなく晒していた。 「…キス、し損ですかね」 「んなこと言うなっ!!」 「きれいですね…」 「……無視かよ」 姿を現した月を見てボソリと呟いた言葉に怒る信乃を完全に無視して、荘介はふわりと笑う。 その顔に弱い信乃は黙るしかなく、無視された苛立ちを内に抱えたまま月を見ていれば、それも何時しか和らいで、ただ、月に見惚れる。 十分に月を堪能し、荘介が自分の腕の中に大人しく納まっている信乃にそっと言葉を紡ぐ。 「戻りますか、信乃?」 「うん」 眠気が湧いてきたのか虚ろな顔をした信乃が目を擦りながら返事をする。 そんな信乃にくすりと微笑み、彼を抱えたまま、荘介は温かい寝床のある教会へとゆっくりと歩を進めた。 月も待たずに、キスをして 貴方の胸で眠りましょう――…。 title by TV(甘えて5題) 信乃;「ホント、こんな下手なのに…」 荘介;「ですね。きっと皆さん言いたいこと沢山ありますよ」 恵;「う゛っ……それは、一旦置いといて」 信乃;「置くなよ…」 恵;「まあまあ。そういや、荘介。結局、信乃に『キスして』って言われて何も感じなかったの?」 荘介;「それなりに可愛いなぁとか思いましたけど。他のとこだったら、押し倒してますかね」 信乃;「なぁ…っ///」 恵;「よかったね、信乃。荘介が我慢強く(?)って…(後、まだ私がエロ書けなくって…)」 信乃;「う゛――っ///」 荘介;「信乃、唸らないでください」 恵;「信乃が(恥ずかしさ故に)暴れそうなので、この辺で。またよければお付き合いください。ではでは…」 |