小さき星「はい、信乃。後は、これを付けて完成よ」 浜路が、脚立の上にいる信乃に手に持っている星の飾りを渡す。 「やっと、終わる…」 情けない声を出しながら、信乃はそれを受け取った。 クリスマスが近い為、二人はツリーを飾っていた。と言っても、ほとんど信乃がやっている。浜路は、飾りを渡すだけだ。 大きなツリーの天辺に付ける星を持ち、信乃は脚立の上に立つ。 だが、少しの事で届かない。 「くっ…」 脚立の上で精一杯背伸びをする。 ――後、少し…。 僅かに足を動かした。 グラッ 「えっ!?」 動かした足は台を踏み損ない、信乃の身体は大きく傾いだ。 ――ヤバッ、落ちる…!! 「キャ――!!」 浜路の叫ぶ声が聞こえる。 襲い来るであろう衝撃に目を瞑る。 だが、何時になってもその痛みは来なかった。 「あれ?」 不思議に思って目を開けると、自分が誰かに抱えられている事を知る。 「あれっじゃ、ありません」 低い声が耳に届く。 「荘…?」 いつの間に駆け付けたのか、荘介が信乃を軽々と抱えていた。 「信乃!大丈夫!?」 浜路が心配そうに近寄って来る。 「まったく…こういう時は、俺を呼んで下さい」 少し怒っているらしい。 「…いや、だってさ、届きそうだったんだよ」 「だからって、無理して、怪我したらどうすんです」 …かなり怒っているらしい。 ダラダラと嫌な汗が信乃の額に流れる。 そんな信乃の様子に、仕方が無いな、と荘介が溜め息を吐く。 「で、信乃。それを付けるんですか?」 「え…?」 視線の先には、信乃の手にギュッと握られた星型の飾り。 落ちてもちゃんと持っていたらしい。 荘介は信乃を肩に乗せる。 「これで届きますか?」 「ああ…」 ツリーに星を飾りながらも、信乃は何だか面白くなかった。 ――…何だか、悔しいぞ。これは。 分かっている事ながら、荘介とのこの身長差が悔しくて堪らない。もう少し身長があれば、こんな事にもならなかったのに。 だが、こんなふうに荘介に抱えられる事を喜んでいる自分もいたりして…。 ――何なんだか…。 自分の気持ちが良く分からない。 「信乃…大丈夫ですか?」 ボーッとしてしまったのだろう。 「や、大丈夫」 慌てて返事をするが、遅かった。 「信乃、落ちたせいで頭おかしくなったの?」 「頭は打ってませんよ?」 「でも、落ちたショックって言う事も…」 浜路と荘介が変な憶測をたてる。 「ダ――ッ!!何とも無いって、言ってるだろうがっ!!」 あれこれと勝手に言い合う二人に信乃か叫ぶ。 笑い合う三人を、綺麗に飾られたクリスマスツリーが見守っていた。 |