tea time




「はいv信乃、荘介v」
 笑顔と共に差し出された皿の上には、切り分けられたタルトが一切れずつ。
 飴色に輝く表面と、焼けた林檎の甘い香り。
 狐色に焼けたタルト生地。
 脇に添えられている白の生クリームと、ミントの葉。
 欧風趣味の繊細な花柄の小皿と相俟って、目で見る分には喫茶店で出されるものよりも余程見栄えよく、美味しそうに映る。
 甘く香るそれを前に、差し出された二人は実に対照的な表情。
「……どーすんの?これ」
 顔色を悪くしながら小さく隣の相手に尋ねるのは信乃で。
「どうするも何も。浜路を悲しませたくなければ食べるしかないでしょうね」
 普段のままの笑顔を保ちながら返すのは荘介だ。
「………お前、浜路の料理食ったことなかったっけ?」
「いえ?既に二度ほど頂きましたよ」
「な・ら!何っでそんな平然としてんだっ!?」
「こんな時くらい平然としてないと、何の為のポーカーフェイスか分からないじゃないですか」
「ワケ分かんねぇよ!」
 小さく怒鳴り返しながら、信乃は手に持ったスプーンの先に生クリームを小さく掬う。
 いつまでも手を付けずにいれば、向かいで紅茶を淹れる浜路がその内不審に思うだろう。
 思いながら、深く考えることもなくスプーンに掬ったクリームを口に運ぶ。
「あ、信……」
 え、と。
 荘介の声に、返す間も有らばこそ。
 スプーンを銜えて横を振り仰ごうとした信乃は、けれど果たせないままその額を机の縁へとぶつける。
 ごつん、と。
 妙に響かない痛そうな音に振り返った浜路が、まず信乃を見、それから疑問の瞳を荘介の方に向けてくる。
 それに返される荘介の表情は、相変わらずの薄い微笑だ。
 但し、わずかにその視線が泳ぐようだったが。
「信乃?」
「…………………………浜路」
 長い沈黙の後、漸く信乃の声。
 但し机に突っ伏すようなその姿勢は変わらずに。
「なあに?」
「……………………何でクリームが苦不味いんだ……………………?」
 絞り出すように返された信乃の声に、返されるのは心底不思議そうな浜路の表情だけだ。