温もりを知った身体に、置き去りの日々は耐えられそうにも無い。




 眩しい……?
 ベッドの上、枕を抱き込むように突っ伏した頬に温もりを感じて、信乃は重たい瞼を持ち上げ薄く目を開く。
 狭い視界が白く滲む。
 瞼を透かしてすら、眩しい陽光。
 未だ眠気にぼやけた脳には、些かその刺激は強過ぎて。
 抱える大きな枕に完全に顔を突っ伏す。
「、荘……?」
 くぐもった呼び掛けに、けれどいつも一緒に寝ている相手の声は返らなない。
 眠っているのかと思い、腕だけをいつもいる辺りにさ迷わせるけれど、指先に触れるのは皺を刻んだシーツの、手触りよい滑らかな感触ばかり。
 あの温かな、柔らかな毛並みに触れることは、できず。
「……っ、荘介……っ!?」
 眠気も何も吹き飛んで、跳ね起きる。
 けれどそこに、求める姿は、なく。
「荘っ!?そう……っ!!」
 寝起きの、混乱した頭。
 その信乃の頭に辛うじて理解できたのは、荘介がいない、と。
 それだけ、で。

「信乃?」

 掛けられた声に、細い肩が大きく震える。
 それでも、振り返ることを躊躇うような頭を慣れた指先が、触れてくる。
 伸ばした黒髪を、緩く擦り抜けていく長い指。
 宥めるような、その指先。
 その指先に、ようやく強張っていた肩が落ちる。
「どこ、行ってたんだよ…」
「すみません。朝食作ってたんです。信乃、よく眠っていたので」
 起こすのも悪いと思って。
 背中越しに掛けられる声は、穏やかで。
 それでも、心臓の止まるかと思うような、あの生々しい感覚は、失せない。
「今度からは、ちゃんと声、掛けていきますね」
 もう一度、髪を梳かれて。
 離れていく指先に、淋しさを感じるけれど。
「……ん」
「もう起きれますか?朝食できてますよ」
 穏やかな問いに、小さく頷く。

拍手御礼ss再録.title by Einsame Rose(閉鎖)