指を絡めて、寄り添って




 哀しい少女に会った。
 彼女は、既に生きてはいなかった。ただ、愛していた人を求めて、学園内を彷徨い、似た人物を見つけてはその人の側にいた。
 少女はその人を守っていた――守っている筈だった。
 だがそれは男にとって害にしかならなかった。彼は日に日に病んでいき、生徒会に助けを求めた。
 だから、オレは――オレ達は、彼女を彼から引き離し、本当の愛する者の処へと送った。天へと――…。
 少女が消えた空を真也はただ見ていた。
 彼女を男から引き離す為に、真実――彼女自身が彼を苛んでいる事――を告げた。仕方が無かったとは言え、酷く辛かった。
 事実を耳にした時の彼女の悲しみの顔が頭から離れない。
 ――他に…彼女を傷付けないで、彼から離す方法があったなら…。
 終わってしまった事なのに、つい考えてしまう。

 「……真也」

 控え目な呼び掛けに、ノロノロと首を動かす。
 少し哀しげに微笑む央生がそこにいた。…彼も同じ気持ちなのだろうか。
 そっと側に来た央生に真也は口を開く。
「御来訪寺達は…?」
「…先に、戻ったよ」
 いつの間にかいなくなっていた友人の事を聞けば、普段以上に優しい声が返ってくる。彼が、自分を労ってくれている事が容易に分かる。
 だから、つい聞いてみたくなった。
「…なぁ、真柴」
「ん?」
「オレのした事は、間違っていたのかな?」
「…どうして?」
「だって、オレは彼女を悲しませた。真実を…言わない方が良かったんだ」
 思いを口にした途端、央生の顔を見るのが怖くなり顔を伏せた。
 だから、手に温かいものが触れた時、ビクリとした。
 央生の手が自分の手を握っている事を知り、そろそろと彼を見る。
「真也、彼女は確かに悲しんでいたけれど…安堵もしていたんだ」
「…え?」
「…『これで、彼を苦しめる事はない』って、そう言ってたんだ」
 哀しげな笑みを浮かべ、静かに告げる。
 そんな央生を見ながら、きっとあの少女もこんな顔をしていたのだと、そう思った。
「それに、最期にあの子は笑ってた…愛する人の元に逝けるから。だから…真也、後悔なんてしなくていい」
「……」
「オレ達のした事は、彼女にとって少し痛かったかもしれない。けれど、間違ってはいないから…だから、そんな悲しい顔、しないでくれ…」
 そっと触れてくる央生の体温に、真也は目を閉じる。
 スーッと頬を流れた雫は、温かい指で優しく拭われた。





少しの後悔に襲われた時は

指を絡めて、寄り添って

その温かな体温で

オレを癒して――…。


title by TV(甘えて5題)