「あれ?しんや、どうしたの?」
帰ってきた家の前。
端の方に座り込んでいる知った顔に、正人は同じように正面に座り込んで顔を合わせる。
けれど、その顔は立てた膝に伏せられ窺い見れない。
「しんや?」
もう一度声をかければ、その顔が漸くにのろのろと持ち上げられる。
持ち上げられたその頬に、涙の跡。
見返してくる瞳も、白い部分が無いほど赤く充血していて。
「しんや?どうしたの?」
「…………ねこ、が」
「ネコ?」
「……………かあさまが、捨ててこい、って……」
「捨てられてたの?」
「うん……」
「ひろったんだね?」
「……うん……」
「そっか……」
再び抱えた膝に顔を押し付け身体を固くする真也を前に、正人はただじっ
とその正面に座り込んだまま。
ふと、考えてみる。
もし、捨てられているネコがいて。
自分はそれを、拾うだろうか?
恐らくは、否だ。
だってどうしようもなく、この身は未だ無力で。
助けを求めるその弱いものを、守れるだけの力など、どこにも持ちはしないのだ。
それが、分かるから。
けれど真也にも、それは分かっているはずで。
多分そこが、相手と自分の心の差。
羨ましいとは思わないけれど、限りなく好ましいと思える、心の。
疲れた膝を伸ばして、立ち上がる。
そのまま、相手の隣に座り込む位置に移動し、肩が触れ合うほど近くにぺたりと腰を下ろす。
驚いたように一瞬震え、こちらを眺めてくる瞳に笑顔を向ければ。
ふと、その強張った顔が安心したように緩んで。
そのまま、正人を案じた家の者が出てくるまで、ただ肩を寄せ合って、座り込んでいた。
拾われることを待つ、あのねこの、ように。
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