あまい日バレンタイン。 それは、女の子にとって好きな人に愛を告白する日。 綺麗にラッピングしたチョコレートなどに自分の気持ちを込め、愛する人へ勇気を出して渡すのだ。 また、男の方も誰かがチョコをくれないかソワソワしながら待っている。 せめて義理チョコくらいは欲しいと仲間同士で話しながら。 そんな何処かくすぐったい様なワクワクする様な甘い日。 ――だが、そんな日に顔をしかめる男が1人。 「…もうちょっと顔の筋肉を緩めれないのか、西脇」 そう、西脇巽その人である。 目の前には彼宛ての甘いお菓子が小さな山を作っている。 それを見た瞬間に彼の顔は石川が緩めろと言ってしまう程に引きつったのである。 (まぁ、気持ちが分からない訳じゃないけどな…) 西脇は甘い物が駄目なのだ。それも匂いだけでも口を覆ってしまうくらいに。 だが、そんな事を知らない女の子達が彼にと置いていったのだ。 リサーチ不足としか言い様がない。自分が好きになった人の嗜好くらい知っておけよ、と彼の顔を見る度に思ってしまう。 「石川…クロウは?」 やっと表情を戻した西脇が友人の名を口にする。 「クロウか…確か食堂にいたけど。西脇、もしかしなくても…」 「…クロウ、いらないかなコレ」 「やっぱり」 超甘党のクロウの名が出た瞬間に西脇の考えている事を理解した石川は、ふぅと溜め息を吐く。 「それでもいいけど、少しくらい…無理か?」 「うっ……」 貰った本人が一つも食べないのは、さすがに送り主達が可哀想で。 自分より少し上にある男の顔を仰ぎ見る。 そのちょっと困った様にこちらを見る顔に西脇が弱い事を石川は知らない。 その後、ブラックコーヒーを片手に小さなチョコを口にする西脇がいたとかいなかったとか。 「西脇ー、ほんとにコレ食べていいのか?」 「ああ」 「サンキュー」 チョコの山を前にキラキラと目を輝かし、嬉々としてチョコに手を伸ばすクロウ。 「…でも、お前も沢山貰ってなかったか?」 「ん?もう食った(笑)」 「はっ!?あんなにあったのを!!?」 「うん」 恐るべき甘党王・クロウ。 何故そんだけ食っても太らんのだ!!…羨ましい。 |