君に笑顔のプレゼントを




 甘い匂いが鼻をくすぐる。
 西脇は嫌な予感を感じながら自室のドアを開けた。
「お帰り〜、西脇」
 嬉しそうに宇崎が出迎える。そして、予想通りの言葉が彼の口から漏れた。
「あのね、石川がクリスマスケーキを作ってくれたんだ!」
「やっぱり…」
 机の上には、小さなブッシュ・ド・ノエルが人数分置いてある。
(――甘そうだな…)
 軽く口を押さえ、西脇は後退りする。
 その様子に、宇崎はしょうがないなと、息を吐く。
「大丈夫だよ、西脇。石川がちゃんとお前の事を考えて作ってくれたやつがあるから。な、石川」
「ああ」
 石川が一つ離して置いてあったケーキを西脇に渡す。
「一応、出来るだけ甘さは控えたから、そんなに甘くないと思うけど…」
 確かに、他のよりはごてごてとクリームやチョコ等が付いていないので見た目もシンプルである。
(――これなら、食べれるかもしれない…)
 無言で考え込んでいる西脇に石川が声を掛ける。
「西脇、無理して食べなくても良いから…」
 心配そうなその声に押される様に、西脇は一口、口に入れる。
 ――…少しだけ甘い…かな。
 仄かな甘みが口の中に拡がるものの、食べられないほどではない。
「…西脇、どう?」
 神妙な顔をした宇崎がズイッと聞いてくる。
「これでも少し甘いけど…食えるよ」
「なら、良かったじゃないか、西脇」
 クスッとクロウが笑う。
 その笑いに不審なものを感じ、西脇はクロウを軽く睨む。
「何を考えてた…」
「え、西脇がそれさえも食べられないって言ったら、こっちの甘いのを食わせてやろうかと…。だって、石川がお前用に特別に作ったんだからさ」
 彼が指差したのは最初に目にしたあのケーキ。クリームがたっぷりで、フルーツやチョコで豪華に飾られている甘そうなケーキ。
「…絶対、無理だ」
 物凄く嫌そうな顔をして、西脇はそれから目を背けた。あんなものを食べたら死んでしまう。
「サンキュー、石川」
「いや。こちらこそ、食べてくれて嬉しいよ」
 石川が優しくフワッと笑う。
「じゃ、俺達も食べよーぜ」
 うきうきとしたクロウがケーキを口に入れる。甘い物を食べているクロウは本当に幸せそうだ。
「おいし〜!!」
 宇崎も嬉しそうに食べている。
 石川はそんな二人を見て、極上の笑みを浮かべる。
 そんな彼の様子に西脇も微笑した。