on a rainy day...




 パラッ。
 静かな図書館内にページを捲る音が響く。
 適当に手に取った本をもてあそびながら、西脇は何気なく視線を彷徨わせる。
 設置された机には、数人の学生が座り、せわしなく辞書や参考書を捲っている。
その隣りには、暇な時間を埋めに来たのだろうか背広を着た男が有名な推理小説を
読んでいた。
 平日なこともあって、あまり人は多くはなく、よりいっそう静かに思えた。
 ふと、こちらに近づく足音が聞こえて顔をあげる。
 視線の先には待っていた人物がいた。
「石川、目当ての本は見つかったのか?」
「あぁ、あったよ。待たせて悪かったな、西脇」
「いや」
 一冊の本を見せながら近寄ってきた石川を見ながら、西脇はそっと周りを見た。
 近くにいた人の視線がこちらに集中している。
 静かな館内に石川の涼やかな声はよく響いたらしい。
 ――…これは、さっさと出ていかないといけないな。
 無粋な視線から遠ざけるため、西脇は笑顔で石川を促した。
「さぁ、石川。帰るか」
「あ、あぁ」
 キョトンとした彼を先に歩かせながら、西脇は足を速める。
 玄関に着いた途端、石川が声を上げた。


 サ――――ッ。


「雨だ……」
「お、降ってきたか…」
 来た時晴れていた空は灰色の雲に覆われ、ポツ、ポツと大粒の雨が落ちてきてい
た。
「どうしよう……俺、傘持ってきてないよ」
 薄暗い空を見上げて、石川が困ったように告げる。
 それを見て、西脇がクスリと笑う。
「大丈夫だぞ、石川」
「え?」
「折り畳み傘、持ってるから」
 そう言って、鞄の中から一本の折り畳み傘を取り出す。
「今日、午後から天気くずれるって言ってたから、持ってきといてみた」
「流石だな、西脇」
 いつも様々な情報を知っている西脇に、石川は呆れたように微笑みかけた。
「ちょっと小さいけど大丈夫だろ」
「あぁ、無いよりマシだ」
「じゃ、行くか」
 バッと開いた傘に二人で入って、雨が降る外に出る。
 濡れない様に石川の方に傘を傾け、西脇は肩を少し濡らしながら帰り道を歩いた。

 当然、寮に着いてから西脇は肩が濡れていることで石川に怒られることとなる。