君の笑顔の側に




 会計を済ませ、店から出た瞬間、西脇はまたか、と思った。

 視線の先には、外に待たせていた連れ――石川がいる。
 そして、彼は数人の男に囲まれているのだ。
 石川は何かと目を引く。その為、一人にすると必ずと言っていいほど人が寄って来るのだ。
 だが、女性ならまだ良い。問題なのは、男だ。
 石川の整ったキレイな顔とバランスのとれたスレンダーな身体は、男性の興味も引いてしまうのだ。
 今回もどうやらそういう連中らしい。
 西脇は石川のもとへ急いだ。
「石川、待たせたな」
「西脇…」
 男達の後ろから声を掛けると、石川は見た目に分かるほど安心して、軽く笑顔を見せた。
 それを見て、男達が黙っている訳が無かった。
「何だぁ、お前」
「邪魔すんな!」
 男達が西脇に対して息巻く。
 側を歩いて行く通行人が何事かとこちらを振り返るのを見て、西脇はうんざりした様に息を吐いた。
「そいつは、俺の連れなんだ。いい加減、そいつから離れてくんない?」
「う……っ」
 ニッコリと笑って話す西脇だが、その目は笑っていなく、その声も低く凄味が利かされ、聞いただけで、背中に鳥肌が立つほどだ。
 男達もそれを感じたのだろう。一斉にザッと顔が青ざめ、我先にとその場から逃げ出した。
 その後ろ姿を見送りながら、西脇は溜め息を付いた。

 きっと奴等は分かっていない。助かったのが、自分達だと言うのを。

 もし石川の我慢が切れていたら、危なかったのは彼らの方なのだ。
 細身で優しい外見からは予想できないかもしれないが、石川と言う男は強いのだ。殴り合った自分が言うのだから間違いない。
 もう少し勘が良くならないもんかなぁ、と思う。
 振り返って後ろの石川を見ると、視線が合った。どうしよう、と行動を迷っている石川に声を掛ける。
「大丈夫か?」
「あぁ。ありがとう、西脇」
 和らいだ表情に西脇もホッとする。この顔が好きだ。石川の笑顔を見たいから、彼と共にいる。
「じゃ、行こうか」
 そう促して、石川に笑顔を向ける。
「あぁ」
 返事と共に石川の優しい笑顔が返ってくる。

 そして、二人並んで、雑踏の中へと紛れていった。