寒い日に




「…寒い」
 自動ドアを潜り、外に出た途端、冷たい風が西脇を包んだ。
 それなりに温かい格好をしてきたつもりなのだが、首元が何となく寒い。
 上着の襟を立ててみるものの、あまり変化はなかった。
「さっさと帰るか…」
 ポツリと呟いて歩き出そうとした時。
 ――ファサッ。
 首に温かいものが掛けられた。
「え?」
 驚いて振り返ると、そこには石川がいた。
「それ、貸してやるよ」
 西脇の首に掛けたマフラーを指差す。
「いいのか?」
「ああ」
「でも、お前は?」
「お前よりは平気さ。そんなに寒そうにされると、見てるこっちの方が辛くなっち
まうしな」
 苦笑しながらそんなことを言って、先にスタスタと歩いていく。
「じゃ、帰ったら温かいコーヒーをご馳走しますか」
 これのお礼にね、と笑顔で提案すると、石川も笑う。
「ああ、よろしく」
 借りたマフラーを首に巻き、石川の隣りを歩いて、寮へと向かう。
 彼の優しさに温められながら。


拍手御礼ss再録.