永遠の箱庭




 離れてから、初めて気付くのだ。



「西脇」
「何だ。待ってたのか?」
 訓練校のグラウンド脇。
 有馬の所で思いの外話しこんでしまったためもう帰っていると思っていた石川に、西脇は軽く瞳を見開く。
 終わったのかと問われて小さく頷き、そのまま懐かしいような景色に目を向ける。
 夕暮れ時。
 もう授業も終わっていて、辺りはしんと静まり返っている。
 国会警備隊に入ってそろそろ半年。
 慣れてきたとはいえ、日々変化し続ける日常に緊張が耐えないのも、事実。
 ふと流した瞳に、秋めいた風に柔らかく揺れる髪をそのままに、夕焼けの陽に透ける場違いなほど綺麗な横顔。
「…大丈夫か?」
 疲れたように見えた横顔にそう問えば、一度軽く目を見開いてこちらを向いた相手に、口の端に微かな笑みを乗せて返される。
「お前こそ。2日に1度は残業じゃないか」
「ま、な。まだ気候がいいからいいけど」
 嘯くように更に返せば、その笑みが更に深まるよう。

「……守られて、いたんだな」

 グラウンドに戻された視線。
 呟くように、唐突に告げられる言葉。
 けれどその意味が今、痛いほどに分かる。
「本当に、守られていたんだ。離れて、始めて気付く」
 何もかもが、全て思う通りになったわけではないけれど。
 だけど本当に、居心地の良かった。
 早く出たいと思っていたその外に出て、初めて、自分たちの危うさに気付いて。
 それでも。
 頬に触れる指先に、石川が不思議そうに軽く西脇を見上げる。
 穏やかな笑みを浮かべる西脇は、そのまま指先を相手のこめかみへと滑らせ、伸びてきた柔らかな髪をその感触を楽しむように後ろへと流す。
「それでも、選んだのは自分達だ」
「分かってるよ。後悔していない。それでも」
 そこで言葉を区切る。
 続きは、告げられない。

 言わなくても伝わるから。
 言ってしまったら、戻れなくなってしまう、から。

 ……今の日常、に。


 永遠の箱庭に、篭る趣味は互いにないから。


title by 中途半端な言葉(閉鎖)