ミンザイ




「ラボナ…ね」
 宇崎の差し出した薬のシートに記された名に、西脇は小さく息を吐く。
 シートに記された名は、今ではめったにお目にかかれない、前時代の遺物ともいえるものである。
 そもそも現在、この薬は未だ合法であるのかさえ、疑わしいほどに。
「…西脇なら分かる、よな?」
「……その確信の根拠がいまいち納得できないけど。…バルビツール酸系催眠鎮静薬、だろう?」
 言えば、先に調べていたのだろう宇崎が小さく頷く。
「…ドクターには?」
「聞いた。…処方、してないって」
「ま、当然だろうな。大体不眠症に、今時BZ系でなくバルビツール酸系なんて処方する医者は滅多にいないだろうし」
 問題は。
「…石川、どこで手に入れたんだろう…」
 宇崎の呟きに、西脇は対する相手に気付かれない程度にその切れ長の双眸をきつく眇めた。


日記ss再録.