「それは、お前の傲慢だよ」
クロウの端麗な面が、珍しい完全な無表情で西脇を見据えてくる。
そちらを見ないままに西脇が、小さく、分っていると返せば、その漆黒の瞳が僅かに眇められるのが分かる。
それでも、視線は合わせず。
「分かってない」
「分かってるよ。だから俺は、この位置にいるんだ」
揺らがない視線のまま目前を見詰めて、静かな口調が告げる。
「分かってない。それともそれが、石川にとってどれほどの悪夢か、分からないほど馬鹿になったのか?」
冷えた声。
響きは、平坦。
けれど内に秘める力は、恫喝のそれにも、劣らない。
揺るがなかった西脇の背が、その時漸く僅かに軸を揺るがす。
「誰かを盾にすることを、失ってしまうことを、一番恐れているのは誰だ?」
「…、っ」
「……頭冷やせ。石川は、ちゃんと生きてる」
暗い部屋。
カーテンに仕切られた、狭い空間。
量産型の、ありふれたベッド。
白いシーツ。
眠るように意識を閉ざしているのは、つい先日教官となった、同期生。
「………悪い………」
小さく零れた言葉は、果たして誰に向けられたもの。
拍手御礼ss再録.title by Einsame Rose